世界分断は「ESG」と「SNS」で深化した

 西側に大きなダメージを与える物価高(インフレ)の元凶といえる世界分断は、どこから来たのでしょうか。「ESG(環境・社会・企業統治)」の考え方と、ポピュリズム(大衆迎合)を促す「SNS(交流サイト)」が、起点であると筆者は考えています。ESGとSNSがなければ、世界分断は起きていなかったかもしれません。

図:「ESG」「SNS」が「世界分断」を生み、深化させた経緯

出所:筆者作成

「純粋化すればするほど、不安定化する」と述べたのは、日本の著名な経済学者である岩井克人氏です。これは同氏が資本主義の本質について語った際に用いたフレーズです。「ESG」も「SNS」も純粋化の文脈上にあります。

「ESG」は2010年ごろから世界に広まり始めました。良いことをしている企業に投資をし、悪いことをしている企業から資金を引き揚げるなど、投資先を選別する際の、「正義と悪の線引き」のきっかけとなる考え方です。

 これにより、E(環境)に抵触する石油関連企業や産油国やS(社会)に抵触する専制的な体制を敷く国(ほとんどが非西側)を非難する声が大きくなりました。そしてその声が大きくなればなるほど、その対極にある西側の企業への投資が加速しました。

 その結果、非西側から西側への利益の移転が起きました(そして西側諸国の株価指数は大きく上昇した)。そして、西側と非西側の間に分断が生まれ、その分断が深まりました。西側が良いこと(正義)を求めて純粋化を進めた結果、かえって世界が不安定化してしまったと言えます。

「SNS」は、人類が望んだ技術革新の延長線上にあります。高度に発達したスマートフォンと世界中に張り巡らされたインターネット網を利用し、「つながりたい」という人の根源的な欲求を満たす「SNS」は、2010年ごろから急速に普及し始めました。

 その「SNS」は、2010年代に起きた北アフリカ・中東地域における民主化の波「アラブの春」や、2016年の英国のEU(欧州連合)離脱を問う国民投票、同年のトランプ氏が勝利した米大統領選挙などに、深く関わったと言われています。

 SNSが増幅させた「大衆の渦」によって、アラブの春では武力行使による政権転覆が起きました。また、国の行く末を左右する大規模な選挙では、民主主義の根幹を揺るがす、思わぬ結果が出ました。SNSは、特定のグループを強く批判する攻撃的なポピュリズムを増幅させて民主主義を脅かす装置、とも言えます。

 技術革新の方向性は基本的に純粋化です。速く、軽く、薄く、遠く、小さく、を目指すためです。その意味では、人類がSNSによる便利さを求めて純粋化を目指した結果、かえって世界が不安定化してしまったと言えます。

 先ほどの図、「「世界分断」が食品価格を高止まりさせた経緯」と「「ESG」「SNS」が「世界分断」を生み、深化させた経緯」を組み合わせると、以下のようになります。ESGとSNSが、食品価格高止まりの一因であると考えられます。

 食品価格を下げさせたければ、西側と非西側の分断を解消する必要があるわけですが、その分断を解消するためには、SNSとESGを止める必要があると言えます。ですが、すでに西側はESG投資と称して莫大(ばくだい)な資金を動かしてしまっていますし、つながりたいという根源的な欲求を満たすSNSを人類から取り上げることは不可能でしょう。

 世界分断はまだ続く、それがもたらす産油国に絡む戦争をきっかけとした供給減少懸念も、減産という名の出し渋りも続く、そして食品価格高も続く、このように考えるのが自然であると筆者はみています。補助金を付与したり、税金の仕組みや金利を調整したりすることで、ある程度、物価高を吸収することが可能かもしれません。

 しかし、足元の物価高がコストプッシュ型である上、西側と非西側の分断を解消しなければ、根本的な解決には至りません。

図:「ESG」「SNS」が食品価格を高止まりさせた経緯

出所:筆者作成