先週の当連載は「原油高騰や金利上昇で日米上昇相場は大ピンチ!」というタイトルでしたが、そのタイトル通り、先週の株式市場は暴落に近い下げに見舞われました。

 日経平均株価(225種)の19日(金)終値は前週末比2,455円(6.2%)安の3万7,068円でした。

 半導体製造装置メーカーの筆頭株・東京エレクトロン(8035)が前週比15.1%安、半導体検査装置のアドバンテスト(6857)が8.9%安となるなど、これまで上昇相場をけん引してきた半導体株が全面安でした。

 機関投資家が運用指針にする米国のS&P500種指数も前週比3.05%下落し、5,000ポイントの大台割れ。

 AI(人工知能)関連の人気株である米国高速半導体メーカー・エヌビディア(NVDA)が前週比14.0%安に沈むなど、ハイテク株が集まるナスダック総合指数も前週比5.5%安と大きく下落しました。

 一方、週明け22日(月)の東京株式市場の日経平均終値は中東情勢の緊張緩和で前週末比370円高の3万7,438円と反発しました。ただ、半導体株の一角の下落が続き、午前中に前週末終値を一時下回るなど、けん引役不在の不安定な動きも見せました。

 先週の下げ要因は、中東で引き続きイラン・イスラエルの軍事対立が続いていること。

 それに伴う原油価格高騰で、米国の物価高が高止まりしそうなこと。

 米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)高官から2024年の利下げを先延ばしにする意向の発言が相次いだこと、などが挙げられます。

 2024年から始まった新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)でS&P500に連動するインデックス型ファンドなどに積み立て投資していたり、個別株に長期投資したりしている投資初心者の方々は今回の急落にびっくりされたかもしれません。

 急落が続いている株価指数や個別株を、単に「安くなったから」という理由だけで追加購入するのは危険です。

 ただ、S&P500といった株価指数の場合、長い目で見て右肩上がりの上昇が続く可能性も高いわけですから、今回のような急落局面はある意味、株価指数を安い価格で購入できるチャンスといえます。

 暴落局面では、「株価指数が5、10、20%下落したら順次、追加の資金で買い増してみる」といった買い下がりや、「過去の値動きの節目で下げ止まって、反転上昇に転じたら買ってみよう」というチャート分析が有効です。

先週:半導体株急落。中東緊迫、米国利下げ先延ばしで下降トレンド入りも!?

 先週、市場の懸念材料となったのは、週末14日(日)未明にイランが大量のドローンやミサイルでイスラエル国内を攻撃したという中東情勢緊迫化のニュースでした。

 19日(金)早朝にはイスラエルがイラン国内をドローン攻撃したという米政府高官の発言も伝えられましたが、イラン側は攻撃を否定。

 一触即発の両国の緊張関係は沈静化に向かう可能性もあります。

 しかし、日米の株式市場を席巻したのは、これまで急上昇してきたAI(人工知能)関連の半導体株の「バブル崩壊」の序章といえるような急落でした。

 半導体関連株には悪材料が満載の1週間になりました。

 17日(水)にはオランダの高性能半導体製造装置メーカーASMLが、予想を大幅に下回る2024年1-3月期の新規受注額を発表。

 18日(木)には世界最大の半導体受託製造会社である台湾積体電路製造(TSMC)が予想を上回る2024年1-3月期の好決算を発表したものの、今後の半導体市場の伸び率予測をわずかに下方修正。

 19日(金)には、AI向けサーバーを販売し、2024年に入って株価が前年末比1.5倍以上も上昇している米国のスーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)が決算発表日の日程を公表。

 その際、恒例となっていた暫定的な決算の数字を事前公開しなかったことが警戒され、前日比23.0%も急落しました。

 日本でも、オランダASML向けのEUV(極端紫外線)を使った半導体検査装置の納入額が大きいレーザーテック(6920)が前週比20.7%安。

 日の丸半導体の設計部門を担うと期待の高かったソシオネクスト(6526)が前週比17.8%安となるなど、半導体株が総崩れとなりました。

 半導体株に関しては、主力の東京エレクトロン(8035)の株価が2023年10月終値1万9,755円から先週19日(金)終値の3万3,530円まで、約5カ月半でいまだ1.7倍近く上昇しています。

 これまで上がり過ぎてきた分、先週の下げだけではまだ下げ止まらない可能性も高そうです。

 ただし、19日(金)には、好決算を発表した米国クレジット会社大手のアメックス(AXP)が前日比6.2%上昇。

 同社を構成銘柄にしているダウ工業株30種平均が週間で辛うじて0.01%のプラスで終了しています。

 そう考えると、今週は半導体株安、金融関連株高といった二極相場になる可能性もあります。

 AIバブル崩壊が現実になりそうな一番の原因は、やはり米国の物価が高止まりして、「2024年に年3回の利下げ」という楽観的見通しが完全に消え去りつつあることが大きいでしょう。

 先週もパウエルFRB議長が16日(火)に、利下げ実施までの期間は想定より長くなるという認識を示唆しました。

 アトランタ地区連邦準備銀行のボスティック総裁が「年末まで利下げに着手できる状況にならないだろう」と述べるなど、FRB高官の利下げ先延ばし発言が相次ぎ、市場の雰囲気を悪くしました。

 中東紛争による原油価格の高騰は先週後半には鈍化しました。

 しかし、米国の長期金利の指標となる10年国債の利回りは4.6%台で高止まり。

 日米金利差の拡大で19日(金)夜のニューヨーク外国為替市場の終値は1ドル=154円60銭台と、依然として34年ぶりの円安水準で推移しています。

 19日(金)に米国ワシントンで開かれた20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議後の記者会見で、日本銀行の植田和男総裁は、円安による物価上昇が無視できないほど大きくなれば金融政策の変更もありうる、とけん制。

 同会合で日本政府・日銀が米国から為替介入のお墨付きを得た可能性もあり、円安阻止の防衛ラインといわれる1ドル=155円台を突破すると、為替介入による株価の急落に注意が必要になりそうです。

今週:マグニフィセント7決算でアク抜け?為替介入、日銀会合、米物価指標に警戒!

 今週は、米国の2024年1-3月期決算発表がピークを迎え、米国株の上昇をけん引してきた「マグニフィセント7」と呼ばれる巨大IT企業の多くが決算発表を行います。

 23日(火)には成長鈍化で株価低迷が続く電気自動車のテスラ(TSLA)

 24日(水)にはフェイスブックの親会社であるメタ・プラットフォームズ(META)

 25日(木)にはグーグルの親会社アルファベット(GOOG)、AI関連ソフトの開発で先行するマイクロソフト(MSFT)、クラウドサービスAWSが好調なアマゾン・ドット・コム(AMZN)が決算発表。

 こうした巨大IT企業が予想を大幅に上回る好決算を発表すれば、急落した株価があく抜けして下げ止まるきっかけになるかもしれません。

 米国では25日(木)に2024年1-3月期の実質GDP(国内総生産)の速報値も発表されます。

 もしGDPの伸びが予想以上だと、強すぎる景気や雇用で物価高が続き、今後、利下げではなく利上げもありうるという市場の疑心暗鬼がさらに悪化する恐れもありそうです。

 26日(金)には日銀の金融政策決定会合が終了。

 会合後に発表される「経済・物価情勢の展望」では、2024年度、2025年度の物価見通しの引き上げが予想されています。

 2%を大きく超えるような高い物価見通しになると、日銀による早期の追加利上げも想定されるため、株価にとってネガティブでしょう。

 そして、26日(金)には米国の3月個人消費支出の価格指数(PCEデフレーター)も発表。

 FRBが最重要物価指標として重視する、食品・エネルギーを除くコアPCEデフレーターは前年同月比2.7%の伸びに高止まりする予想です。

 伸び率が予想以上に大きくなるようだと、ますます米国FRBが利下げに踏み切る時期が遅れることになりそうです。

 場合によっては再利上げも視野に入るため、株価の下落に拍車がかかるでしょう。

 反対に予想以上に物価上昇率が鈍化した場合、先週までの利下げ先延ばしに対する懸念が単なる杞憂(きゆう)に終わったと見なされ、株価が急激に反転上昇する可能性もあります。

 今週はどこで株価が下げ止まるかが焦点なだけに、マグニフィセント7の決算や米国物価指標の伸びの鈍化具合などに厳重注意が必要です。

 後から振り返って、「AIバブル崩壊」といわれるほど株価がさらに下落して、全体相場が下降トレンド入りするかどうか。

 今週の株式市場は大きな転換点に立たされているといえるでしょう。